前回のポスティングではスピンオフ等の分割を非課税とする多くの条件の中から「Active Trade or Business」に関して触れた。基本的にDもSubも過去に少なくとも5年行っていた実績のある事業をスピンオフ後も継続しなくてはならないというものだ。モトローラの例で見ると「Mobile Devices」部門は5年どころか少なくとも数10年は行っているだろうし、残りの事業も5年はやっているだろう。Mobile Devicesのように技術革新が目覚しい業種だと、一言でMobile Devices事業と言っても5年前と現在ではその姿はかなり異なると思われるが同一事業という認定がされれば問題はない。どこまで事業内容が異なると新しい事業と位置づけられるのか等、Active Business規定は個々のケースに独特の事実認定に拠るところが大きい。
タイムワーナーはネットサービス部門「AOL」のネット接続(プロバイダー)事業を分離する意向だと伝えられている。AOLとタイムワーナーは後からくっついた企業であるが少なくとも5年は経過しているので、Active Business規定の条件を満たすことができるであろう。
Active Business規定は近年いろいろな進展があるのでもう少し落ち着いた時期にじっくり解説してみたい。今日のところはスピンオフの他の条件に移るとする。
*事業目的(Business Purpose)
この「Business Purpose」という条件はスピンオフばかりでなく、買収型の再編(A、 B、C、買収D等)にも適用されるのだが、買収の局面では他の条件と比べると何となくハードルが低い。しかし、スピンオフの局面ではかなりの牙を持つ条件となる。
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まず、誰にとっての「Business Purpose」かという点だが、これはスピンオフを実行する法人、すなわちDまたはSub(各々のグループ法人を含む)の事業目的でなくてはいけない。スピンオフにより事業分配を受け取る株主側の目的を達成するためではいけないということだ。Business Purposeは無数に存在するだろうが、連邦税を低減させるためというのは目的としては受け入れられない。これは一見当然であるが、面白いことに連邦税以外(例えば州税)の低減は立派なBusiness Purposeとして認められる。
また、スピンオフの最終的な目的は直接・間接に企業の株主価値を高めるというものであるが、単純に株主価値を高めるということだけで終始してしまうと、表面的には目的が株主側だけのものとなってしまう。したがっておかしな話しではあるが事業目的はDそのものに帰属するものでなくてはならず、あくまでも「結果として」株主価値が高まったという流れである必要がある。
もちろん多くのケースで法人側のメリットは株主のメリットでもあることが多いため、この区別は時として難しい。そのような場合には株主にメリットがあってもDまたはSubでもメリットがあるのであればBusiness Purpose条件は満たされる。
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一般的によく見られるBusiness Purposeとして、異分野の業種を複数抱えていて経営その他の面で問題があるようなケース、またDまたはSubの再編を進める前準備として事業を切り分ける、というようなものがある。上述のモトローラ、タイムワーナーの例もこれらのケースである。また、上場企業でないClosely Heldっぽい局面では株主間の折り合いが悪くなり、各々が事業の一部を受け取り袂を分けるという、分かり易い分離もBusiness Purposeのクラシックケースであろう。ちなみにこの場合はスピンオフだと引き続き仲間割れをした株主と事業を共有しないといけないので、スプリットオフまたはスプリットアップの形態を取ることとなる。でないとBusiness Purposeと形態に整合性がなく、条件を満たしていないと取り扱われるリスクがある。
また、Business Purposeは「スピンオフ」、すなわち切り放した事業を株主に分配するところまでの必要性がなくてはいけない。一つの法人に存在する二つの事業を単に子会社に現物出資して目的が達成されるのであれば、それを敢えて株主に分配する必要はなく、単に別法人に持たせるだけでよくスピンオフをする理由とはならない。
*DによるSubの「Control」
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非課税スピンオフの条件を満たすには、Dが分離する事業を有しているSubに対してスピンオフ前に「Control」に上る持分を所有している必要がある。ここでいう「Control」は企業再編の規定に共通な定義である「議決権の80%」かつ「議決権を有していないクラス各々の80%」とされる。面白いことに株式の価値とは関係がない。議決権付きの株式は全てのクラスまとめて80%かどうかを判断する一方、議決権を有していないクラスの株式がある場合には「各クラス」の80%を持っている必要がある。仮に79%の議決権しか持たないSubを「スピンオフ」したとすると、非課税スピンオフの条件を満たしていないことから単なる配当となり、株主が課税されることはもちろ ん、Subの含み益に対してDでも課税される大惨事となる。
もちろん「Control」要件を満たしていないのであれば、スピンオフの前段階で再編をして「Control」を得てからスピンオフを実行するというプラニングは可能だ。しかし、そのようなプラニングの際には、Subの株式取得がActive Trade規定違反とならないこと、またSubに対するControlが単なる一時的な意味のないもの(Transitory)として無効されないこと、等の個別の事実関係に即した検討が必要となる。
「Control」条件からも分かる通り、スピンオフの対象となる事業はSubという法人格に所有されていなくてはいけない。Dが事業資産を法人化することなくいきなり株主にスピンオフすると非課税スピンオフとならない。ただし、Subはスピンオフの目的でスピンオフ時に子会社化される形態でも問題はない。すなわち、Dにスピンオフしたい事業がある場合にはその事業を第一ステップとして現物出資してSubを設立した上で、第二ステップとしてそのSubをスピンオフの対象とするという形態だ。スピンオフに先立つ現物出資は通常の出資と異なりDが一瞬株主となるもののスピンオフを前提としていることから通常の非課税出資規定の対象とならないことがある。しかし、スピンオフを前提とした第一 ステップの現物出資は「分割D型再編」となるため、第二ステップの分配が非課税スピンオフとなる限り現物出資時に課税されることはない。D再編の後にスピンオフされるためこのような2ステップ型取引を「D-355」と表現したりする(僕だけかもしれないが)。
例えば仮にモトローラの「Mobile Devices」事業が他の2セグメントである「Networks and Enterprise」「Connected Home Solution」と同様にモトローラ株式会社という一法人に属しているものとする。その場合には直接Mobile Devices事業を資産(プラス負債)として分配することができないため(正確にはできるが、とんてもない課税関係が発生するため)、Mobile Devices事業を現物出資してSubを設立する必要がある。Mobile Devices事業に税務上の含み益が存在するとしても、Sub株式をその後非課税スピンオフで分配することができるのであれば、第一ステップの現物出資はD型再編となり非課税だ。
*DによるSubの分配
Dは分割する対象となるSubを株主に分配する必要がある。スプリットオフ、スプリットアップに見られるようにこの分配はD株主の持分に準じて均等に行う必要はない。技術的には分配はSubの「Control」部分が分配されれば分配の条件そのものは満たすことができるが、敢えて分離しようとする事業の20%等の少数持分を持っていてもしょうがないケースが多く、また再編を促すというようなBusiness Purposeを掲げている場合には、一部株式を保有することはその目的から逸脱するというような解釈もなりたち、そうなるとBusiness Purpose条件を満たさなくなるリスクがあることから、多くのケースで100%持分が分配される。
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