2012年4月9日月曜日

原発を支えるイエロー・ケーキとは? ウラン採掘の闇。: 英考塾



「イエロー・ケーキ」という極上のケーキは、過去数十年に渡りその生産者たちを大いに潤し続けてきた。

そして、この極上のケーキは今後ともに、その美味しさを維持し続けることだろう。世界中に「原子力発電所」が唸(うな)りを上げ続ける限り…。

関係者たちがイエロー・ケーキと呼ぶのは、粗精錬工場で精錬された「ウラン鉱石」のことである。

原子力発電の原料である「ウラン」は、アジアにおける原子力発電所の建設ラッシュにより、国際価格が上昇している。

1990年代の安い時には、1ポンド10ドル前後で取引されていたウランは、2000年代に入って急騰し、一時136ドルという空前の高値を記録した。

さすがに、その高値は突発的だったものの、現在は50ドル前後で落ち着いている。それでも20年前から比べれば、およそ5倍という高い水準にある。

電力会社からしてみれば、原料価格の高騰は好ましからざるものであろうが、生産者にしてみれば、これほど美味しい話はない。

「イエロー・ケーキ」は、まだまだ作り甲斐があるということになる。

今後、中国では26基の原発が建設される予定であり、インド(6基)、韓国(6基)、インドネシア(4基)、ベトナム(4基)も合わせれば、このアジア地域だけで、今後世界で建設される原発66基のうちの実に70%をも占めるに 至る。

急成長するアジア諸国にイエロー・ケーキ(ウラン)を提供するのは、カナダ・カザフスタン・オーストラリア・ナミビア・ロシアなどなどの資源国。

とりわけ、カザフスタンの生産量の増加は著しく、ここ10年あまりで約3倍にも増大している。


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また、その採掘を取り仕切る企業は、リオ・ティント(イギリス)、カメコ(カナダ)、アレバ(フランス)、BHPビリトン(イギリス)などなど、そうそうたる世界企業たちである。

さて、このウラン採掘であるが、「放射能」の危険はどうなのであろうか?

原子力の世界では、ウランを採掘・濃縮・加工する過程を「アップ・ストリーム(上流)」と呼ぶらしいが、イエロー・ケーキを精錬する過程は、最上流に位置する源泉ということにもなる。

ウランを掘ることは、じつに無駄が多い。

なにせ、1トンの岩石から数100グラム程度のウランしか採れない。つまり、掘り出した岩石のほとんどが無用となるのである。

ゴミとなった� ��石は、採掘場のそこら中に山をなす(ホダ山)。そして、このホダ山は当然のように放射性物質を放つ。

また、精錬の際に使われた大量の水は、鉱滓(こうさい)と呼ばれる放射性物質を含んだドロを大量に生み出す。

ウラン鉱山の周囲にある湖のように巨大な水溜まりは、この鉱滓(こうさい)を捨ててできたものである。

放射性物質を含む無数の「ホダ山」と「鉱滓ダム」の処理には、長い長い年月と大金が必要である。その実例はドイツにある。

ドイツにある「ヴィスムート鉱山」というのは旧東ドイツであり、そのウラン採掘は旧ソ連の行うところであった。

このヴィスムート鉱山は、旧ソ連が秘密裏にウランを製造する工場でもあったため、この地は地図に記すことすら許されてはいなかった。当然、その労働者の口は固く封じられていた。

この鉱山が日の目を見るようになったのは、ベルリンの壁が崩壊し、その管理がドイツに任せられるようになってからである(1990)。


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ひとたび光が当てられたヴィスムート鉱山は、その劣悪な労働環境と酷い環境汚染を白日の下に晒すことにもなった。

ドイツ政府は、即刻この鉱山を閉山するも、いまだにその後処理に追われている。年間600億円がその後処理に必要とされ、20年経った現在ですら、その作業はいつ果てるとも知らない。

ウランの半減期は45億年。そして、その副産物(娘核種)であるトリウム230の半減期は80万年。たとえ、人為的な処理が終わろうとも、これらの物質が放射性物質を放つのをやめることは永遠にないと言っても過言ではない。

こうした事実が明るみにでてしまうと、まともな民主国家でウランを採掘することは、長期的に多大なコス� �がかかってしまう。

オーストラリアにあるオリンピックダム鉱山(1988年採掘開始)は、地元住民に訴えられており、賠償金を支払う事態にまで発展している。

それでも、原住民アボリジニに対する補償は十分ではなく、いまだに問題は解決していない。

こうしたトラブルが少ないのは、発展途上国ということになる。

実際、世界のウランの半分近くは、カザフスタン、南アフリカ、ナミビア、ブラジル、ニジェール、ロシア、ウズベキスタンなどで賄われている。

それら発展途上国の鉱山で働く労働者たちは、その危険性を認知していないことが通例であり、放射性廃棄物たるホダ山と鉱滓ダムは、どの山でもそのままに放置されたままである。

発展途上国にとっては、ウラン鉱山があることで政府の税収� �もなれば、地元住民の雇用にもつながる。

ウラン鉱山は賃金の払いが良いこともあり、途上国の人々にとって、鉱山は敬遠すべき対象ではなく、むしろ歓迎すべきものなのである。

しかし、労働環境の劣悪さは否めない。知られざる公害は静かな広がりを見せている。


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インドのウラン採掘の村の一つ「ジャドゴダ」では、鉱山労働者たちが肺ガンで倒れ、奇形の子供達が生まれている。ウラン鉱山からの廃液は、生活用水と混ざり合い、採掘による放射性物質は土埃とともに村を舞うのである。

その村で奇形の子供が生まれると、「この子は前世に悪人だったから、こうした苦しみを与えられた」と大人たちは言うのだそうな。

福島第一原発の事故により、原子力発電の是非が盛んに取り沙汰されるようにはなったが、その原料となるウランの採掘現場に光が当てられることは、いまだに少ない。

もし、まともに取り沙汰されるようになれば、原子力発電のコストというのは、今以上に跳ね上がってしまう可能性もある 。採掘自体の費用に加え、その補償コストまでが加算されるとすれば。

幸か不幸か、日本にウラン採掘現場はない。

日本は世界でも有数の原発大国でありながら、その原料は全量輸入に頼っているのである。その輸入先は、オーストラリア(33%)、カナダ(27%)、ナミビア(16%)、ニジェール(13%)などなど。

日本にウランはないのか、というとそうでもない。

岡山と鳥取にまたがる「人形峠」には、かつてウラン鉱山があった。しかし、「全く採算がとれない」となり、放棄されてしまった。

そのため、その採掘はごく短期間で終了してしまったのだが、この短い間ですら問題は多発している。

坑内のラドン濃度は国際基準の1万倍もあったと言われ、肺ガンで倒れた労働者は1000人中、70人を超えたの� ��という。

そして、その残土は放置されたままであったのだとか。

日本はドイツでは過去の話であろうとも、ウランを掘り続ける国家にとっては現在進行形の出来事である。

そして、最大の利益を追求する大企業は、自らその闇を明かすことは決してない。

先進国の豊かな電気はどこからくるのか?


自国で発電するとはいえ、そのエネルギーには必ず原料が必要である。そして、その原料は、原子力発電の場合はイエロー・ケーキ(ウラン)に他ならない。

世界がイエロー・ケーキを欲する限り、その採掘は止むことがない。その採掘の後を振り返れば、処理しきれぬゴミで一杯である。

先進国たるカナダ、オーストラリアとて例外ではない。汚染された河川や湖が回復する見込みは何万年と先になる。

ましてや透明性の低い途上国ともなれば、その現場では信じられない光景が日常的に展開されているのである。

資源を持たない日本は、いわば御輿(みこし)の上で安穏を得ているようなもの。

しかし、その御輿を担いでくれている人々が世界中にいることも忘� �てはならない。

願わくは、この御輿を担いでいる人たちが、一人、また一人と肺ガンに倒れてしまわないことである。

出典:
BS世界のドキュメンタリー シリーズ 原子力の残痕 「イエローケーキ〜ウラン採掘の現場から」
ウラン鉱山の村「それでも、ブッダは微笑むのか?」
ウラン採掘と人形峠旧ウラン鉱山



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